門限の9時

ここに無い魔法 帰りの電車

ゴールを守るFW

薮くん、26歳のお誕生日おめでとうございます。

ピッポがゴールを愛しているんじゃない。ゴールこそがピッポに惚れ込んでいるんだ。」

イタリアのサッカー選手、フィリッポ・インザーギ選手(通称ピッポ)のことを、ある人はこう言ったそうです。

フィリッポ・インザーギという選手は、高い身体能力やテクニックのあった選手ではなかったと言います。
ただ、彼はそれを努力も持って跳躍し、類稀なるゴールへの嗅覚と、意表をつくポジショニングで、チームに多くのゴールをもたらした人でした。

薮くんは、彼のそういったところが好きだと言います。


興味本位で観たゴール集動画から感じたインザーギ選手のプレースタイルというのは、私自身が抱いていた薮くんのイメージとはたいぶ異なるものでした。
普段高校サッカーやJリーグしか観ない私には、あまりのスピードに、彼の全てのプレーがオフサイドに見えました。パスを出すのが先か、彼の動き出しが先か、素人目には分からないほど、瞬時に敵のマークから抜けてボールを受け取りゴールするのです。
それほど、インザーギ選手のプレースタイルというのは「貪欲」「果敢」に見えました。

しかし、「貪欲」「果敢」というイメージは、良い意味で薮くんには似つかわしくない言葉のように感じます。
薮くんは何事にも動じず、淡々と器用に物事をこなすイメージがあるからです。
事務所に入るなり、マイクを持って、NHKホールで一人歌う。普通の子だったら怖気づいてしまうかもしれないことを淡々とこなすなんて、度胸があるというか肝の据わった子どもだったのではないでしょうか。

私は、当時をリアルタイムで観ていたわけではないので分かったようなことは言えませんが、Jr.時代の薮くんは、まさにFWというポジションで、ゴールを決め続けることを求められるアイドルだったんじゃないかと、私の目には映ります。
さらに、ジャニーズJr.の10番というエース番号を背負って、連続得点記録を更新し続けること、得点王になること、多くのタイトルを求められる存在だったように想像します。
そんな人が、Hey!Say!JUMPというチームでは1番の背番号を背負うことになった。1番はGK。前線から一転、みんなを後ろから見守り、JUMPのゴールマウスを守る役割になったのです。もしかしたら、キャプテンマークまで託されていたかもしれません。

Hey!Say!JUMP結成前、薮くんがジャニーさんから「このメンバーどう思う?」と聞かれたというのは有名な話ですが、あの時、このメンバーを見て、薮くんはすぐ、「自分がFWではいられない」いや、「GKにならなくてはいけない」ということを察したはずです。
私は、ジャニーさんが薮くんに意見を求めたのは、薮くんを試すためだったのではないかと思っています。
ずっとFWとしかピッチに立ってこなかった選手が、このポジションを譲ることのできる人なのか、どこのポジションでも頑張れる人なのか、メンバーを見て、自分がこの集団の中でどんな役割を担っていけばいいのか分かるだろうか。
サッカーで言えば、コンバートに応じるだろうか。監督であるジャニーさんの戦術を理解する力があるだろうか。確認程度かもしれないですが、試されていたんじゃないかと私は勝手に思っています。

インザーギ選手は、現役時代ずっとFWだったと言います。

「いつだって僕は多くのゴールを決めてきた。ストライカーにとってゴールこそが人生なんだ。」

サッカーのポジションの中でも、FWというポジションは、ゴール前で戦い、ゴールを決めチームに得点をもたらす勝敗と直結する仕事です。ゴールを決めると多くの人に注目される華やかなポジションです。
しかし、プロで戦う多くの選手が、ゴールを決め続けることへのプレッシャーと戦い続けています。ゴールを決めたいのに決められないことに頭を悩ませ、時にサポーターからの心無い声で傷つくことだってあると思います。
FWの選手にとってゴールとは「パフォーマンス」であり、チームが繋いだパスに託した「希望」のようなものでもあります。それを続けること積み重ねることがどれだけ難しいことか、そのプレッシャーは、観客の私には到底測り知れません。
Jr.の10番を背負った薮少年にもそれは同じかそれ以上に重くのしかかっていたのでしょう。

インザーギ選手がずっとFWでいたのは、FWとしてゴールを決めるという結果を残してきたからです。ご存知の通り、サッカーは誰がゴールを決めても良いスポーツで、必ずしもゴールを決めるのがFWである必要はありません。だからこそ、「この人に決めてほしい」「この人なら決めてくれる」と思わせるなにかが必要なんだと思います。ゴール手前まで繋いだパスをゴールという形にする使命を果たせる人が立つべきポジションだし、そこに立つ人はそういったことが出来なくてはなりません。
どんなに才能のあるFWでも、チームメイトからのパスが来なかったら意味がないですし、パスの受け取り方を知らなかったらゴールになりません。
たくさんのパスを受け、シュートを打ってきた、それがHey!Say!JUMPのメンバーです。でも、誰もパスの出し方を知らなければ、シュートを打つ以外の輝き方を知らない。
ずっと最前線に立ち続けていた薮くんが守備的なポジションにいることに、最初は誰もが抵抗や違和感があったと思います。
でも、そのポジションに立つ薮くんを誰もカッコ悪いなんて思わなかった。これまで誰より多くのシュートを打ってきた薮くんにしか分からない、シュートしやすいパス、掛けてほしい言葉の数々、それを前線に立たされたメンバーたちに、最年長としてきちんと与え続けてくれてきたからだと思うし、インザーギ選手が、ゴールを決めるというFWの役割を全うして認められたように、自分のポジションに求められることを淡々とこなして来てくれたからだと思っています。


年越しのカウントダウンライブで、薮くんは会場のファンの前で最後にこんな挨拶をしました。

「2016年もJUMPを愛してくれますか?ずっとずっと愛してくれますか?その声がある限り、僕たち9人はみんなのことを愛し続けたいと思います。皆さんは、僕たちの力の源です。だから、2016年も、こういう機会があったら、一人ひとり笑顔で、僕たちに元気を分けてください。僕たちも、その何倍も、みんなに元気を与えます。」

この言葉を聞いた時、最年長がアイドルとして迷いなく立っていてくれているHey!Say!JUMPはやっぱりすごいアイドルだと思いました。
モニターに映った何度も頷く山田くんの表情からもそれが伝わりました。この人が最年長だったから、みんなが歩いて来れたのだと。

サッカー選手誰もが、ゴールを決めたいと思っているように、多くのアイドルが羨ましいと思う立ち位置で輝いてきた薮くん。
そして、Hey!Say!JUMPというチームでコンバートを経験し、一番後ろからみんなの背中に向かって声を上げ、鼓舞するポジションを経験し、見守り方を知って、パスの出し方を知った。
そんな薮くんの声やパスは、いつもアイドルとして最高のものだった。「決めてくれ」と背中を押し、シュートが決められなかったら、自分が楯になってゴールを守る。
そんなふうに、薮くんがJr.時代とか違う輝き方できちんと輝いていてくれたから、MFで良かったのにトップに立たされてしまった山田くんや、トップを外されトップ下に立った裕翔くん、他のメンバーが、自分のポジションを全うし、アイドルとして腐らずやって来れたんだと私は思っています。

Hey!Say!JUMPは、本当にみんな薮くんが好きだし、心から薮くんを頼りにしていると思います。
それは、Jr.時代、受け取ったパス一つひとつをきちんとゴールしている薮くんをみんな見て来たからだし、JUMPになってFWじゃなくなってからも、薮くんがちゃんと自分のポジションを全うすることで、サポーターを満足させるのは、FWのゴールだけじゃないってことに気づいて、分け隔てなく声を掛けパスを出し続けて来てくれたからなんだろうなと思っています(一文が長い)。


人が立ち位置を選ぶのか、立ち位置が人を選ぶのか、私にはわかりません。
ただ、薮宏太というアイドルは、まさに、「薮宏太がアイドルという職業を愛しているんじゃない。アイドルという職業こそが薮宏太に惚れ込んでいる」とでも言いましょうか。彼の生き様そのものがアイドルであり、彼のきれいな言葉は、いつだってアイドルの模範解答なのです。








ゴール前から放ったボールが、綺麗な放物線を描いて、反対側のゴールネットを揺らすような奇跡のような瞬間を。
それを、チームメイトが見上げ、ファンが見上げる。誰もが見惚れる放物線。




鳴りやまない大歓声の中、チームメイトは彼のもとへ駆け寄る。
いつだって、物語はゴール前の彼が蹴るボールから始まる。
その声がある限り、チームメイトが前を向く限り、彼は、きっとアイドルとしての自分を全うし続けるだろう。




薮宏太くん、26歳のお誕生日おめでとうございます。